皆さん、親知らずって聞いたことがありますよね。
通常、歯は上顎にも下顎にも14本ずつ、上下で28本あれば十分満足した咀嚼ができます。つまり、中切歯から第2大臼歯まで揃っていれば正常な状態なのですが、親知らずは、その第2大臼歯の後ろに生えていて、第3大臼歯と呼ばれています。多くの方は、顎の奥には十分なスペースがないため、親知らずが真っ直ぐに生えることは少なく、無理な生え方をしています。そのため、生える方向が歪んでいたり、十分に生えきれずに歯茎の中に埋まっている状態になっていることが多いのです。そのような親知らずでは、上下をきちんと咬み合わせることができないため、そこで噛むという機能が失われています。それどころか、残しておくことの悪影響が多いことを知っておいて下さい。
まずは、親知らずの位置まで歯ブラシを届かすことが難しいため、多くは虫歯になっていきます。しかし、その虫歯は親知らずに留まらず、その前の第2大臼歯に波及することが大きな問題です。とくに第2大臼歯と親知らずの間に虫歯ができることが多く、そのため十分な治療ができないことがあります(お口を開けることに限界があり、器具や器材がそこまで入らないことが要因です)。
次に、これは下顎に多いのですが、親知らずが生えきれずに、歯茎の中で斜めや横に向いていることがあります。この場合、歯茎の上に親知らずの一部分が出ているのですが、その歯茎の周りが腫れて痛みが出ることがあります。親知らずのあたりが痛いということで緊急に当クリニックに来られる患者さんも多くおられます。これは、”智歯周囲炎”と言って、中途半端に生えている親知らずの周りの歯茎が細菌感染を起こして、炎症が拡がっている状況です。その状態を放置することで扁桃や喉の奥まで感染が拡がり、ひどい場合は入院しなければならないこともあります。幸い現代の医学では、よく効く抗生物質があるため、すぐにお薬を服用することで、そこまで感染が拡がることは防ぐことができます。
では、そのような親知らずがある場合、どうすればいいのでしょうか?答えは、抜歯をすることをお勧めします。本来は、そのような悪影響や症状が出ていないときに抜歯をしておくことがいいのですが、患者さんの気持ちとして、”痛みも腫れもないのに、痛い思いをして抜歯をするのはどうも・・・”と二の足を踏むことはよく理解できます。しかし、一生持たせたい第2大臼歯を守るためにも、また急な痛みや腫れが出て、すぐに対処できない危険性も含めて、時間的に余裕があるときに抜歯をしておくことも大切です。
統計をみますと、第2大臼歯を失う原因の多くが親知らずによる影響であることが分かっています。第2大臼歯を失うことで、咀嚼する効率が大きく低下することになります。そのため、入れ歯になる可能性も大きくなり、その時期も早まります。今は、インプラントの技術も進んでいますが、そのための時間や費用は大きな負担になります。もちろん、できるだけ自分の歯は残した方がいいので、もし不用な親知らずがありましたら、是非歯科医師と相談して下さい。親知らずがあるかどうかがご自分で判断できない場合でも一枚のレントゲン写真ですべて見つけることができます。
では、親知らずを抜く時の注意事項は何でしょうか?上顎と下顎では若干異なってきます。上顎では、副鼻腔(上顎洞)があり、その中に親知らずの根が入り込んでいる場合は、要注意です。抜くことで、その穴と副鼻腔が繋がってしまい、副鼻腔炎を起こすことがあります。また、下顎では、骨の中に下歯槽管という管があり、その中に太い神経と血管が詰まっています。抜歯をする際に、その神経や血管を傷つけてしまうと、神経麻痺や大量出血の危険性もあります。そのため、抜く前に親知らずの状況をしっかりと知るためにCT撮影は絶対に行う必要があります。
CTの画像を診査し、通常の(問題がない)状態の親知らずであれば、当クリニックで抜くことができますが、少しでも危険を伴うと判断した場合は、大学病院や口腔外科の専門病院に紹介致します。いずれにしても、術前にしっかりとした診査をして、安全で、安心して抜くことが大切です。抜いた後は、必ず翌日に洗浄に来ていただき、縫合をした場合は、1週間~10日後くらいに抜糸のために来院していただきます。抜歯後、上顎の親知らずは腫れることは少ないのですが、下顎で歯茎の下に埋もれている親知らずでは、大半が腫れます。そのため、十分な投薬(抗生物質と消炎鎮痛剤)が必要になりますが、多くの場合、1週間ですべての症状(腫れや痛み)が収まることが確認されています。
もし、早く親知らずを抜いておきたい(あるいは、抜いておいた方がいいかどうか知りたい)という患者さんは、当クリニックに連絡を下さい。適切なアドバイスをさせていただきます。