第49回 日本口腔インプラント学会 講演(福岡)
「Back To The Basics」
特別講演タイトル:Before Selecting Implant
~歯の保存か、抜歯をしてインプラントか?~
令和1年9月21日(土)、22日(日)に福岡において第49回日本口腔インプラント学会が開催されました。
この日は、大型台風17号が九州から関東にかけて上陸するということで、大荒れの天候の中での開催となりました。22日の日曜日は朝から飛行機の運行が見合わされるといった情報が入り、21日の土曜日に帰路につく参加者も多数おられました。
私が登壇しました特別講演は、「Back To The Basics」というカテゴリーで、インプラント治療に関する基本を一から見直そうという趣旨のセッションでありました。毎回のインプラント学会に欠かせないセッションで、いつも会場が参加される先生方で満席になる人気のセッションです。今回は、台風が直撃する可能性が高い22日(日)の午前中に開催されましたが、500名入る会場は一杯になり、熱気に包まれた講演となりました。
私はそのトップバッターで登壇し、今回のタイトルは、Before Selecting Implant~歯の保存か、抜歯をしてインプラントか?~で30分の講演でした。
インプラントは、欠損しているところを補うための材料であって、天然歯に代わるものではないという言葉があるように、歯を失った後に口腔機能回復を図るための治療オプションのひとつです。
欠損部への治療法には、インプラントの他にブリッジ、パーシャルデンチャー、自家歯牙移植などがあり、それぞれに利点、欠点があります。一方、歯が存在する状況で、懸命に治療に当たるものの、保存が困難と判断し、その後の処置として前述したオプションを計画することも多くあります。インプラントには、固定性である、両隣在歯を削らなくてもいい(他の歯に負担を与えない)、違和感が少ないなどの多くの利点があり、かつ近年の長期に渡るリサーチでも良好な予後が報告されています。そのため、歯の保存を諦めて、インプラント治療を希望される患者が多いことは事実ですが、そこには同時に歯科医師側に歯を保存することへのこだわりが薄れてきている現実もあるように感じられます。
歯内療法的問題、歯周病的問題、歯根破折、外傷歯、健全歯質の欠如などの問題を抱えた症例に遭遇した場合、それぞれの現症をしっかりと診査したうえで、まずは保存の是非について熟慮すべきであります。そしてたとえ少しでも保存の可能性があるならば、あらゆる知識と技術を総動員して全力をもって治療に臨むことが望まれます。
例えば、歯内療法的問題では、難治性根尖性歯周炎と診断された症例であっても、マイクロスコープを用いた歯根端切除術や意図的再植術を応用することで、多くの歯を救うことが可能になりました。さらに、力及ばずに抜歯となった場合であっても、適切な移植歯があれば、自家歯牙移植術は、より保存的で生物学的な治療法として非常に有効な手段といえます。今回の講演では、歯内療法的問題を抱え、保存か抜歯かの判断が困難なケースを取り上げ、歯の保存にこだわる立場からインプラント治療の前になすべき治療について様々な症例を通じて検証してみました。
講演後は、会場からいくつかの質問があり、参加された先生方の興味を引く内容だったと安堵しました。しかし、山陽新幹線が不通になる可能性もあったため、その後の講演を聴かずに博多駅へと向かいました。他の演者も興味ある内容の講演をされるため、最後まで拝聴したかったのですが、台風には勝てません。この時期の学会ではこのような事態があることも想定しておかなければならないと痛感させられました。