《ドクターからの豆知識》根の先に膿が溜まるのは、なぜ?
2022.12.26更新
根の先に膿が溜まるのは、なぜ?
歯科医院を受診して歯のレントゲンを撮った時に「この歯の根の先が膿んでいます」と言われた経験はないでしょうか?
歯が生えてきた時は、どの歯もすべて神経があります。
しかし、経年的に虫歯が進行し、痛みが生じると神経を取る処置が必要になってきます。
虫歯は、歯のエナメル質や象牙質が細菌の出す酸によって溶けることを言います。
象牙質が溶けるとその中にある神経に細菌が侵入し、痛みを生じます。
その時点で、皆さんは歯科医院を訪れますが、細菌の感染が少ない場合は、神経を残す治療ができることがあります。
しかし、細菌が深く侵入し、感染が拡がると神経を取らなければなりません。
これを「抜髄処置」と言います。
最近の研究で、「抜髄処置」であっても根の先までは細菌が侵入していないことが分かっています。
つまり、根の先の神経は感染していないので、生きている場合がほとんどです。
生きた神経がある限り「膿む」ことはないのですが、何らかの原因で生きている神経に細菌が感染を起こして、結果的に膿むことになるのです。
では、その原因は何でしょうか?
原因の多くが、治療時に満足な感染対策をしていないことだと言われています。
それは、治療前、治療中、治療間の3つの場面で、感染防止の準備を怠っていることが原因です。
・術前・・・ラバーダム防湿の徹底
皆さん、根の治療をされた時にラバーダムをかけられたことはありますか?私のクリニックでお聞きしても、多くの患者さんが、「そんな経験はないです」とお答えになります。
ラバーダムとは、ラバーを専用の器具を使って、治療する歯の周りに固定して、他から細菌が入らないように隔離することです。
このことにより、治療中に唾液や粘膜に存在している細菌が歯の中に入らないように防御できます。
根管治療を行うときは必ず必要な前準備です。
・術中・・・不十分な滅菌と不用意な器具操作
根管の中に入れる器具、器材、材料は、すべて滅菌・消毒をされていなければなりません。
当たり前のことに聞こえますが、意外となされていないことが多いのが現実です。
また、歯の中に虫歯が残った状態で根管治療を行うことで、無菌であったところに、細菌を入れ込むこともあります。その結果、根の中全体に細菌感染が拡がり、膿が発生することに繋がります。
そして、根の中は肉眼では見えない(小さくて、暗い)ので、明るい環境で、しかも強拡大で見なければ治療が不十分になります。そのためにマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)は、必需品と考えています。
・術間
根管治療は、1回で終わることは難しい処置です。とくにいくつもの根管がある大臼歯では、複数回の処置が必要です。その場合、次回の治療までに歯の表面を封鎖しなければなりません。
この封鎖が不十分ですと、せっかく綺麗にした根の中に唾液中の細菌が入り、新たな感染を引き起こします。そのため、当クリニックでは、2重の封鎖を行っています。
もし、上側のセメントが割れたり、剥がれたりしても、その下に違ったタイプのセメントを置くことで、根の中が汚染にさらされることを防ぐことができます。
このように、根の治療は、「今起こっている感染(細菌)をできるだけ除去し、絶対に新たな細菌を入れない」ことに尽きるのです。
しかし、我が国の「根の治療」の成功率は、かなり低いというデータが出ています。
世界中(外国)の多くの調査を見ても、日本の根の治療のレベルは低く、後進国と言っても過言ではありません。
皆さんもこれから根の治療を行うときは、
- ラバーダムをしているか?
- マイクロスコープを使用しているか?
- 適切な封鎖をしているか?
をチェックしてみて下さい。
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